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開業決定の勤務医先生に聞く、私が承継開業に踏み切った理由

匿名【取材当時勤務医。2018年4月1日から承継開業】

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これから臨床獣医師を取り巻く環境の悪化は必至ですが、それは同時に、そこでチャンスをつかめる人とつかめない人とに二分化されていくことを意味します。

開業志望の勤務医では、新規開業しか知らない人とこの「承継開業」を知っている人とでは 院長になった時のスタートラインから違ってきます。 そこでこれから承継開業をする勤務医先生に、決断するに至った経緯を伺いました。

状況

  • 1件目の病院で3年間、2件目の病院で8年間勤務/年齢も30代半ばで既婚
  • その病院の院長から「継がないか」と話あり/通勤を考えて自宅を購入(住宅ローンあり)
  • この承継話が進まない中で勤務医生活を続ける(週に2日間の当直、家を朝7時に出て夜11時に帰る毎日)
  • 大学の先輩と後輩が「承継開業」したことを知る

そこでどう決断したのか

西川:先生は大学卒業後、11年間の勤務医生活を経て、 今回、「承継開業」で院長になられることになりました。 先生は勤務医時代には開業を意識されていなかったとのことですが、どんな勤務医時代だったのかについ てお聞かせください。

開業決定先生(以下、先生):私は大学卒業後、臨床に 入った直後は開業する意識というよりも、自分に自信が持てませんでした。  それは、卒業後入った病院の院長がワンマンで、勤 務医は院長から指示された通りの治療をする病院だっ たので、自分ができる人間なのかどうかがわからなかっ たからです。
そのため、開業するのは無理だと思っていました。 その病院には3年間勤めて、次の病院に移ってから、 私の意識が180度変わることになります。 次の病院の院長は、「なんでもやれ」というタイプ。 自分がやりたいと思う治療法があるなら、患者さんに きちんと説明できて責任がとれるのであればどんどん やれという病院でした。

もちろん、もしもの時は院長が出て来てくれましたから、スキルもどんどん向上していきました。
前の病院では院長の思い通りにならなければ怒られるから、病院に出勤するのも嫌な毎日でしたが、今の病院に来て、仕事が楽しいと思えるようになりました。 「院長の仕事をやらされている」から「自分が主体で 仕事をしている」と、仕事に対するモチベーションが 180度変わりました。
そんな時に院長から「この病院を継がないか」とい う話を頂きます。 「こんな良い話はない、ようやくチャンスがやってき た」と思いました。そしてまずは通勤に便利な場所に 家を買いました。  そこまでは良かったのですが、そこから承継話は具 体的に進まなくなってしまいました。

西川:今、勤めている病院の院長から「譲る」という 話だったのですか。

先生:今から考えれば、完全に譲るだったのか、副院長か、雇われ院長のポジションを提示されたのか、院長の真意がわからずに、私は開業のチャンスがやって きたと思ってどんどん行動を起こしていきました。 しかし、この同様の話を先輩方にもしていたようです。
先輩方は院長の真意に気付いて、円満退職されて、その後、開業されています。
私は自分の方から具体案を何度も提示しましたが、 院長は「何も考えていない。ちょっと時間をくれ」と 言うばかりで、1年経ったので、「これはダメだな」と 思って、承継開業コンサルタントの西川さんに相談しました。

西川:家を買った後での開業となると、相当な決断力 が要ったと思いますが、開業を決断した理由は何だっ たのでしょうか。

先生:一言で言えば、「これまで勤務医として院長のた めに費やして来た労力と時間を今度は自分のために使 おう」と思ったことです。
今の病院の勤務は、結構きつい。
週2日の当直があり、病院には2泊3日することに なります。普段も、朝7時に家を出て、帰りは夜の 11 時になる生活です。  これでは新しく買った家でくつろぐ時間もありま せん。
これは開業した先生よりもきついのではないかと 思ったことが開業の動機になりました。
院長になれば、診療時間や休日は自分が決めることができますから、その方が家族との時間も作れると思いました。
私の妻は、「このままでも給与がきちんともらえているのだからそれでいい」という考えでしたが、私は今の 生活が嫌だったので開業へと転身することにしました。

「このままでいいのか」、不安から開業を決断

西川:この「承継開業」について、勤務医である先生 はどのようにして知ったのでしょうか。

先生:以前、何かの本でみて、この事業承継という言 葉は知っていました。 その本では、かなり特殊な例として紹介されていた ので、自分には関係がないと思っていました。 その後、同じ大学の先輩がこの「承継開業」で院長 になられて、その経験談が大学の同窓会誌に載っていたのですが、「実際のところはどうなのかな」と疑問を 持っていました。 ちょうどその頃は、今の病院の院長から「承継話」 が来ていたので、承継開業という言葉は頭の片隅に入 れておく程度だったと思います。 しかし、35 歳くらいになってくると、「このままで いいのかな」という不安が出てきます。 ちょうどそんなタイミングでした。 夜間、病院に勤務していた時のこと、メディカルプラザの事業承継の雑誌が机の上にたまたま置いてあったので開いて読んでいたら、私の大学の後輩が 「承継開業院長」として載っていたのでビックリしま した。 すぐさま、承継開業した先輩に会い、承継なら独立できるかもと思って、西川さんに連絡をとって承継話が始まりました。

西川:あれからちょうど1年くらいで、承継先がみつ かってよかったです。

先生:私は家を買ったばかりだったので、資金面での不安が一番大きかったのですが、この雑誌に「自己資金が少なくても、元院長の銀行からの信用によっ て融資を受けられた」事例があったので、この一番 の不安は西川さんがサポートしてくれると思ってお 願いしました。

西川:今回も融資を含めて承継がスムーズに進みました。

先生:私はこの病院が承継先として紹介されるとは 思っていませんでした。 西川さんから「◯◯で案件が出ますよ」との連絡を 受けて、その日のうちにその駅周辺の動物病院を見て 回りました。「ここは大きいから承継を考えているのは あり得ないな」と思っていた病院が承継先として紹介 された病院だったので、またビックリでした。 その上、承継先の院長とは、同じ大学の同じ研究室であったことも、またまたビックリでした。

西川:確率で言えば、本当にあり得ないでしょうが、この承継開業では、案外、この不思議なご縁があります。 先生がメディカルプラザの雑誌で見た後輩の先生で すが、今は出身地から遠く離れた場所で承継されまし たが、譲った院長とは出身地が同じでした。 この承継開業は、まさにご縁が成せる業なのかもし れません。

勤務医が知らない、2つのリスク

西川:先生は11年間、勤務医をされています。 先生は終身勤務医についてはどうお考えでしたか。

先生:今、終身勤務医を考えている先生は、家族のた めに安定した収入とプライベートな時間を確保したいからだと思います。 そのためには、ある程度の規模の病院に勤めたい。 開業のリスクを背負うよりも、終身勤務医でいる方 が将来の安定につながると思っているのでしょう。 私の開業動機は、今勤務している病院がとんでもなく、激務だったからです。もし勤務が楽だったら、このまま勤務医を続けていたかもしれません。

西川:実は、安定、安心と思っている終身勤務医には、とんでもないリスクが隠れていることを若い勤務医先 生はご存知ありません。 東芝、シャープといった一流企業でもリストラが行 われています。これから三井住友銀行、みずほ銀行な どのメガバンクでも、万人単位でのリストラが行われ ます。 この動物病院業界は年金と退職金がサラリーマン並 みにはないので、50 歳を越えると途端に将来不安が出てきます。 これが、隠れているリスクです。

先生:これは知りませんでした。 私も、大病院や企業動物病院に入れば、それで安泰 ではないかと考えた時期もありました。

西川:その企業動物病院ですら、安定はありません。 50 歳以上の勤務医のリストラの可能性がない病院も ありません。 これから犬の頭数がマイナストレンドに入っていく と、動物病院もリストラで必死で生き残りを考えるよ うになります。この隠れたリスクは、若い時には全くみえません。 そのため、私はこの情報誌を出して、勤務医先生に様々 な情報を届けようと思いました。

先生:私は、自分のこれから先のことを考えた時に、 この「承継開業」という、もう1つの開業法があることを知ったので、勤務医から開業医へと転身すること ができました。

西川:もう1つ、勤務医先生が知らない事実があります。 それは、首都圏で開業することのリスクです。 この首都圏に勤務先と開業先を希望する人が増えて いることはご存知だと思いますが、実際にどれくらい の開業件数があるのでしょうか。 2016 年の1都3県での新設開業件数を調べますと、 驚いたことに、「242 件」でした。この数字は全国の 60%以上がこの首都圏に集中していることを意味して います。 首都圏での開業についてみれば、この「承継開業」 ですら狭き門になっています。 この新設件数が毎年出てくるとなれば、今後、どん な事態が予想されるのか。 すでに過当競争は始まっていますし、これからは経 営難での倒産も出て来るでしょう。 これが、若い勤務医先生が知らない、2つ目のリスクです。

先生:大学を出て2年から3年目は、今やっている仕 事で精一杯で、将来のことを考える余裕がありません。 まだまだ先のことだから今はいいやと私も考えていま した。 、「あれ、将来どうする ?」と不安になってく るのが5年から6年経った頃からでしょうか。 その時期にこうしたリスクがあることを知っておくことは大事なことだと思います。

西川:リスクがあることを知れば、早めに対処するこ ともできますから。 そのためにも今後、どんどん情報を出していこうと 思っています。 本日はありがとうございました。